目 次
はじめに
1.生産経営事業者の区分
2.安全生産管理機構の設置(第10条)
2.1第10条第1項、第2項について
2.2第10条第3項について
2.3第10条第4項について
2.4第10条第5項について
3.安全総監(第13条)
3.1定義
3.2設置条件
3.3具備すべき条件
3.4登録安全技術師
4.安全生産委員会(第14条)
5.まとめ
はじめに
2021年に「安全生産法」(以下、「安全生産法」という)、2022年に「山東省安全生産条例」(以下、「山東省条例」という)がそれぞれ改正されました。改正後の法令は、安全生産監督管理体制について大幅な調整が行われました。「青島市安全生産条例」(以下、「青島市条例」という)の一部内容は、上位規範に適合しなくなったので、2024年3月に改正が行われました。
山東省において、前述法令以外に、安全生産監督管理体制について、改正「山東省生産経営事業者安全生産主体責任規定」(2024年1月4日施行)(以下、「主体責任規定」という)や「山東省生産経営事業者安全総監制度実施弁法(試行)」(2023年10月1日施行)(以下、「安全総監実施弁法」という)等があります。主体責任規定は、安全生産管理機構の設置・安全生産管理人員の配置や安全総監の設置等の内容を詳細化しました。安全総監実施弁法は、安全総監の具備すべき条件等を明確化しました。
これら法令の関連条文を合わせて理解しないと、安全生産管理機構の設置に関する法令の全体像を捉えることがなかなか難しいと考えます。本文において、主に難解とされる条文の関連内容を説明します。
1.生産経営事業者の区分
山東省の規定(山東省条例第19条、青島市条例第16条)は、安全生産法第24条を詳細化し、以下のようにハイリスク生産経営事業者を定義し、生産経営事業者をハイリスク生産経営事業者とその他の生産経営事業者に区分しました。
この定義をもとに、主体責任規定第10条は、安全生産管理機構の設置条件をさらに詳細化しました。この第10条は、山東省における安全管理機構の設置に関する重要条文であり、難解条文でもあります。把握するには、後述の条文だけではなく、安全総監実施弁法の関連条文も合わせて理解する必要があります。以下、順を追って説明します。なお、分かりやすく説明するために、以下の条文において、定義の詳細を省略し、ハイリスク生産経営事業者という用語のみを用いることにします。
2. 安全生産管理機構の設置(第10条
2.1 第10条第1項、第2項について
以上のように、第10条第1項、第2項は、生産経営事業者と従業員数により、安全生産管理機構を設置しなければならない場合や専任または兼任安全生産管理人員を配置すれば足りる場合を詳細化しました。
ちなみに、「安全生産法意義の解釈」(中国法制出版社、2021年7月)は、安全生産法第24条についての解釈部分で、安全生産管理機構と専任安全生産管理人員を以下のように定義しました。
安全生産管理機構とは、生産経営事業者内部に設立される安全生産管理事務を専門担当する独立部門を指します。
専任安全生産管理人員とは、生産経営事業者において安全生産管理を専門担当し、その他の業務を兼任しない人員を指します。
2.2 第10条第3項について
主体責任規定は、山東省の条例で、山東省内において効力を有します。国レベルにおいての厳格規制が今後公開される可能性を想定した条文です。
2.3 第10条第4項について
労務派遣雇用形態が普及したことを想定し、労務派遣労働者を従業員数に加算しなけれならないことを規定した条文です。
2.4 第10条第5項について
本項は新規内容で、規制強化された難解条文です。また、本項は、安全総監設置条件(後述参照)を踏まえ、安全総監を設置しなく良いとされる本条第1項第1号を規制するものと理解されます。
本条第1項第1号に該当するハイリスク生産経営事業者は、安全総監を設置せず専任安全生産管理人員を配置すれば足りるハイリスク生産経営事業者のうち、危険物の生産、貯蔵、卸売事業者および鉱山、金属精錬事業者は、従業員数が100人未満の場合でも、登録安全技術師を配置し、安全生産管理業務に従事させなければなりません。つまり、この場合、本条第1項第1号の専任安全生産管理人員は、実質的に登録安全技術師であることになります。
ここの「その他の生産経営事業者」は、もし第2項に規定されるハイリスクでない生産経営事業者を含むとなれば、ハイリスクでない生産経営事業者にこれまで以上の負担をかけることになることから、登録安全技術師を配置する必要のあるハイリスク生産経営事業者以外のハイリスク生産経営事業者と理解するのが合理的ではないでしょうか。
よって、第1項において、上記以外のハイリスク生産経営事業者は、登録安全技術師と契約して安全生産管理業務に従事させることを推奨され、また、第2項第1号、第2号に該当するその他の生産経営事業者の場合、本項は適用しないという理解になります。
このような難解設定は、山東省が安全総監制度を推進していることに原因があると考えます。旧版では、登録安全技術師についての内容が5箇所もあり、最も強く印象づけられています。新版は、安全総監を設置し、全体の整合性を考慮してこれらの内容を削除しました(後述参照)。また、専任安全生産管理人員だけの配置では安全の確保には不十分と思われるハイリスク生産経営事業者に対して、登録安全技術師の配置を規定しました。
3.安全総監(第13条)
3.1 定義
安全総監実施弁法第3条において、安全総監は、本事業者の主要責任者の安全生産管理職責の履行に協力し、本事業者の安全生産管理業務の特定事項管理を担当すると規定されています。
3.2 設置条件
以上の設置条件から、主体責任規定第10条第1項第2号、第3号、第4号のハイリスク生産経営事業者、および同条第2項第3号、第4号のその他の生産経営事業者は、安全総監を設置しなければならないということになります。
この場合、安全生産管理機構は、各号に示される専任安全生産管理人員と安全総監により構成されることになります。
3.3 具備すべき条件
安全総監実施弁法第6条第6号は、安全総監が具備すべき条件として技術師以上の職名または登録安全技術師の資格を取得し、且つ本業界領域内において安全管理業務の従事期間が3年を満すことを挙げました。
これにより、安全総監は、登録安全技術師と同等以上の能力を有することが分かります。
3.4 登録安全技術師
旧版の主体責任規定では、登録安全技術師の配置についての規定が5箇所もあったが、今回の改正は、これらを削除しました。新旧条文を比較すると、従業員数や専任安全生産管理人員数などが同じであることが分かります。
旧版において、専任安全生産管理人員のうち、何人かが登録安全技術師でなければならないという設定に対し、新版において、専任安全生産管理人員に、安全総監を加えるという設定になっています。結果的に、登録安全技術師という資格を有する人数が減少したが、安全生産管理機構の総人数が増加または維持されることになりました。
ハイリスク生産経営事業者
その他の生産経営事業者
安全総監が登録安全技術師と同等以上の能力を有するので、安全生産管理機構の総人数が増加または維持の状態で、安全総監が専任安全生産管理人員を指揮して安全生産管理業務を遂行するというのが、新版が規定する安全生産管理機構の骨組と見受けられます。
4.安全生産委員会(第14条)
事業者が大きくなればなる程、業務連絡が遅れたり、業務が順調に進まなかったりというようなことがよく発生します。このようなことを想定し、一定規模に達する生産経営事業者に対し、安全生産委員会の設置の条文を設けられました。
5. まとめ
以上、山東省の条例をもとに、安全生産管理機構に関する最新法令を説明しました。ご参考までに、安全生産管理機構の設置フローを以下のようにまとめたが、何しろ難解条文なので、設置の際、所轄応急管理部門への確認をお勧めします。
① ハイリスク生産経営事業者またはその他の生産経営事業者の確定
② 安全生産管理人員、安全生産管理機構
Ø ハイリスク生産経営事業者の場合
従業員数により、第10条第1項第1号から第4号に基づき、配置または設置また、第10条第5項に基づき、第10条第1項第1号の一部は登録安全技術師を配置
Ø その他の生産経営事業者の場合
従業員数により、第10条第2項第1号から第4号に基づき、配置または設置
③ 安全総監
第13条に基づき、設置
④ 安全生産委員会
第14条に基づき、設置